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IMG_0873.jpg死線を越えて  賀川豊彦







もう20年ほど前に父の口から出た言葉。
「若い頃に、賀川豊彦の死線を越えてを読んだ。」
修道院に入りたいという姉に反対して、説得する時に出た言葉です。
「死線を越えて」の響きがなぜかずっと耳に残り、いつかは読んでみたいと思っていた本です。
図書館に水滸伝の10巻を借りに行った時に検索してもらい、ついに手に入りました。
大正時代に100万部が売れたという空前のベストセラーです。
現代のベストセラーとは全く質を異にしている社会派の小説に驚きました。
2009年にPHPから復刻版が出版された賀川豊彦の自伝的小説です。
学生時代の生活と生い立ちを語った前半は、少々退屈で読むのに骨が折れますが、
後半、神戸の葦合新川の貧民窟に身を投じ、キリスト教の精神を持って
人々を救済するくだりからは、一気に最後まで読みました。
100年前の日本に存在していた、想像もできない貧民窟のすさまじさ。
そして自ら死を決して貧民窟に入り献身的に活動する賀川の姿は、
インドのマザーテレサを彷彿とさせました。
理想を掲げながら、自分だけの力ではどうにもならない社会に挫折し、貧民窟の貧しさに泣き、
救われない貧民窟の暮らしの中で賀川の語った言葉には、どん底の生活の中でも心の美しさを
失わない人達がいることに、驚愕と感嘆の思いでした。
そして貧民窟の子供達を美しいと言い、子供達を愛する賀川の姿には神々しさをも感じました。

貧民は悲しくて泣かなくてはやり切れない時にも勉めて笑うことがある。
  泣いとったって、仕方がないわな。
  笑って送るのも一生なら、泣いて送るのも一生であったら、笑って送らな損やな!
という乞食のお春の言葉。
貧民窟には物質を離れ虚栄を離れて、赤裸々の最も人間的な、最も肉体的な笑いが出来るのである。

100年前の日本にもこんな世界があったことを、
この本に出会って初めて知ることができました。
生きるとはなにか、人間とはなにかを考えさせられる本です。
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